夏の日差しが海を輝かせる季節… 夜の静寂を破り湾岸線にエキゾーストノートが響き渡る… 再び若者達の伝説が始まる…
負けてないよ。アクセルを踏まなかっただけだ…(純) 何〜じゃ勝負してないってか?(孝) そうだ…俺はあのNSX-Rに追い越されたが追撃はしなかった。理由は簡単だよ…無駄な戦いはしない…それに試験走行中だったし 笑(純)なんだよ早く言えよな〜俺てっきりさぁ…笑。 で、いつやんだバトル!?(孝) ………。
居酒屋で馬鹿にされただろ!ポンコツとか田舎者ってさ〜。お前悔しくねぇのかよ!?(孝) うつむき気味に工場の床を見つめる純…おもむろにツナギの胸ポケットから煙草を出した。カチッ…Zippoのフタが開く… ふぅ…煙りがゆらゆらと昇っていく …自分でも分からないよ…あの時、アクセルをなんで踏まなかったのか……(純)
分からない?(孝) あぁ…試験走行って言い訳かも…Rのエンブレムを見て怖じ気づいたかも…負ける事が許されない伝説の86の重圧か…(純) そう話すと純はじっと遠くの入道雲を見つめたバッキャロー!孝の声が工場に響く。孝が純の目の前に立った!
あのよ〜涼さんがどんな思いでお前に譲ったか知ってんだろ!?ただの車じゃないってお前が一番知ってんだろ!血と汗とみんなの想いが詰まってんだよあの86には!情けねーなお前!最初から負け犬なら二度と乗らない方がいいぜ…じゃあな!…そう言うと孝は帰って行った 純!あとは頼む…こいつを生かすも殺すも乗り手しだい…純にはできるよ! 涼の言葉が脳裏に浮かんだ…
航(ワタル)がマンションにいた。広々とした部屋の黒いソファに座りワインを飲んでいる …あなた86に勝てる自信あるの?…あの婦警マジで言ってるのか?この俺が負ける訳ない。車、テクニック…負ける要素なんてない。…それともあの86に何か秘密でもあるのか?… 航は香織の一言が気になっていた どれ寝るか、明日は心臓のオペがある… 夜中1時…航は寝室に入った…
ブオォーン!キィー!推定出力270ps5バルブ4A-G改のパワーに耐えきれずBSポテンザが鳴く!…86がS字に突っ込んでいく。3速からシフトダウン!タコメーターの針が7000rpmを維持したまま2速!…ヒールandトゥ… キキィー!テールスライドしながらコーナーを駆け抜ける 畜生!…純が叫ぶ。航が眠りに入る頃、純は峠を走っていた… こいつに乗る資格…俺にあるのか…(純)
その数日後、航が勤務してる病院良かったね愛ちゃん元気になって‥(航)ありがとう結城先生‥早く歩けるようになりたい!ウフ(愛) そうだね頑張れ!応援してるよ。園長先生今日は来てないね‥(航) うん園長先生忙しいから‥笑(愛) 愛は20歳、施設育ちである。幼い頃親に捨てられたのである
でも寂しくないよ好きな人いるから‥優しくてかっこいいんだ エヘ (愛) へぇ彼氏かぁ羨ましいなぁ俺最近女っ気ないからなぁ…(航)結城先生イケメンだよ早くつくりなさい!笑。彼…車の整備士なんだぁ‥それにとっても速いの!あたし大好き!あの白いハチロク…(愛) ハチロク?白…(航)そうハ・チ・ロ・ク!(愛)
その時、病室のドアが開いた 愛!今日残業でさぁ遅くなったよ(純) 無理に来なくていいのに…笑。こちらが主治医の結城先生だよ!(愛) 愛に言われた純は結城を見た…結城もまた純を見る。…まさか…お互い一瞬言葉に詰まった。ん…どうしたの?…愛は二人の顔を交互に見つめた。一瞬の二人の態度を見て感受性の豊かな愛は心に何かが引っかかった。そんな愛の言葉に愛に気付かれまいと純は口を開いた…
愛がお世話になりました…純は軽く会釈をした 安心して下さい…術後は順調です。若いから回復も早いしすぐ歩けますよ。ところで86乗ってると愛ちゃんから聞きました。相当速いらしいですね(航) …いや…そんな事ないです…(純) じゃぁ愛ちゃんまた明日!ゆっくり休んでよ 笑。ハ〜イ!愛が笑顔で返事をすると航は病室を出て行った あいつが最速の86乗り…航はある決心をした
えー!マジ!?愛ちゃんの主治医がNSX野郎か…道理で金持ち…それに対決しづらいなぁ(孝) まだ対決するって決めてない…向こうだって対決する気持ちなんかないよきっと…(純) まぁそれはそうだけどな。どっちかが果たし状でも突き付けない限り勝負は始まらないからな。この前は悪かったよオレ熱くなってさ(孝) いいよ別に(純) ズズー…ストローでアイスコーヒーを飲み干す孝…海岸線の茶店で二人は遠く貨物船を見つめていた。男二人で喫茶店…オラハイヤ笑
県警高速隊本部 伊東警部!外線一番です!○○総合病院からです病院?なんの用だろ…もしもし伊東ですが…あら久しぶりね…また急に何かあたしに用件でもあるの? …しばらく相手の話を聞く香織… 分かったわ…。ガチャン。トントン…受話器を置くと香織はボールペンで机の上を数回叩いた さてどうする…(香織)
数日後 純は休憩の為エアコンのきいた事務所に入り冷蔵庫から冷えた麦茶を出しコップに注ぎ込むとゴクゴクと喉を鳴らしながら一気に飲んだ。「甲子園最速!仙台育英の佐藤!155キロが出ました!」テレビには高校野球が映っていた。椅子に座るといつものZippoでタバコに火をつけた その時携帯が鳴った…画面を見て相手を確認する純 アッ‥香織さんからだ…もしもし…
真っ赤な夕日が海に沈もうとしている。病室の白い壁はその夕日で赤く染まっていた…純は窓際に立ちその夕日を見つめていた 海がキラキラして綺麗〜(愛) …… 純どうしたの?(愛)あ、いや…何でもないよ…夕日に見とれてたよ(純) …そう…ならいいけど…愛はそう言って純の目を見つめた …愛には言えない…純が心でつぶやいた
次の日 香織さん!孝です!野郎!…いやあの医者と純が対決するって聞いたんですけどマジすか? 純は即答でやるって言ったわ…あたしも純が前からあまり乗り気じゃないのは分かってたから話すの迷ったけど言わない訳にもいかないしね愛ちゃんの主治医がやつだって知っててですか?純やりづらいと思いますけど〜!?え!そうなの?結城はそんな事言わなかったわよ 単に86の実力を見たいからって……純のやつ…
夜11時。ベットに横になってる純 たいした事じゃない…負けても何も変わらない…ただのバトルだ。不敗神話の86の重圧から逃れるかのように純は自分に言い聞かせていた 航のマンション ポンコツ86か…連中にRの実力を見せてやる。プロレーサー達がなぜ自家用でRを乗り絶賛するかその意味を教えてやる… 病室 …純の目は迷っていたわ…あの日結城先生と逢った日から…。何?あたしの知らないところで何かが動こうとしてる…愛は病室から暗い海を照らす灯台の光をじっと見つめていた
航は香織に呼び出され喫茶店にいた 何で愛ちゃんの主治医って言わなかったの?(香織) 言ったら伝えた?私情が入れば人って悩むし不安になる…でしょ?結果対決は実現しない(航) …冷静ね…(香織) 冷静沈着でなくちゃ外科医なんてできない。常に生死を背負ってる仕事だから感情的になる事はないね…ま、何と思われようが構わない(航)…そう。香織は一言言うと白い珈琲カップを口へ運んだ…
この人、死と常に向き合ってる…ある意味その重圧から離れたいって心理から今までバトルを仕掛けてたのかも知れない…。純も同じ…86伝説の見えないプレッシャーから早く楽になりたい心理が働いてるわ…。みんな一皮剥けば弱い人間の集まりかも…弱いから強くなりたいって思ってる…私も同じかも(香織) …86の秘密聞きたい?香織は突然話を切り出した
マジでやるのか?(孝) あぁお前も望んでたろ?笑。(純) まぁそうだけど(孝)こいついい顔してるよなぁ…1983年に出ていまだに愛されてる車なんか日本にないよなぁ。…AE86…名車だよ間違いなく…(純) 例えば?(孝) バタン!純はボンネットを締めた
まずは軽い事。俗にスポーツカーと云われる車は重いやつで1500s以上ある…いくらチューンし高馬力にしても86との600sの差は決定的に不利。パワーだけじゃ速くは走れない…トータルバランスが大事。何でもCPU制御の車なんか興味ないよ…自分の運転技術がそのまま走りに出るこいつが俺には合ってるよ(純) そんなもんか。デジタルよりアナログ好きってことか 笑(孝)
いや…聞かなくていい…(航) そう。意外と気にするほう?笑(香織) 逆だね…聞いたところで何も変わらない。過去は過去だ…興味もない(航) 確かにね…変な事言って悪かったわね。じゃ今日夜勤だから…(香織) 香織が席を立つ聞けば心に引っかかってる何かが解ったかも知れない…帰る香織の後ろ姿を航はじっと見ていた
いよいよ勝負あさってだなぁ…純大丈夫かな…(一平)純のやつ意外と明るいわ何か吹っ切れたみたいだな!(孝) …あいつ口が重いタイプだろ!?ひっかかるなぁ…その明るさ…(一平) 心配すんなよ自信がなくちゃ勝負しねーって!でも正直、性能はNSXが上だな。あとは気合い!(孝)なんだ孝どっち応援してんだよ(一平) 純に勝ってもらいたいのに決まってる!が…ヤバい気もするな。あぁ神様…(孝)
香織が愛の見舞いに来ていたどう具合?(香織) 大丈夫です。たまに軽くめまいするけど結城先生は心配しなくていいって(愛) そう、結城先生がついてるなら安心だわ早く外で散歩できるといいわね(香織) ハイ!頑張りま〜す!笑。…あのぉ…ところで香織さん…純最近変わった事ありました?分かるんですあたし…純の心が揺れてるのが…(愛)えっ…一瞬香織は言葉が出なかった
参ったなぁこの子人並み以上に感受性が強いわ…ここは一発嘘つくか…(香織)特に聞いてないわね〜何もないと思うよ心配無用!ハハ…(香織) そうですか…なら安心しました。笑(愛)…良かった信じてくれた。香織は内心ほっとした 香織さんの嘘つき…何があるの純…心配… 愛は絢香の♪Whyの詩を思い出した…この詩…今のあたし…涙が出そう…その時、心と逆に愛は笑顔で香織と話してた…
純!明日バトルやるんだって!噂になってるわよ〜 純の仲間と遊び友達の幸子は純に恋心を抱いてた 純は仕事の手を少し休めた 誰だよ言ったの?おしゃべりだな(純) さぁ知らな〜い…頑張ってね!明日応援行くから(幸子)あのさ愛には言うなよ…あいつ心配症だから(純) ハイハイ!ご馳走様!笑(幸子) また愛か…いくら施設育ちだからって肩持ちすぎ…人の気も知らないで純のバカ…
リハビリ順調みたいね退院いつ頃?ところで知ってた?今日の夜のバトル…(幸子) なに?それ…(愛) 純よ…なんだ知らなかったの?(幸子) えっ…それで最近態度が…ベットに座っている愛は無言で病室の床を見つめていた 相手はこの病院の結城って先生みたい…聞いてビックリしちゃった(幸子) まさか結城先生と…嘘…どうして…(愛)
湾岸線側からは工事標識を出したから一般車は来ない!思い切って行け!孝が86に乗ってる純に声をかけた 分かった…純が小声で答えた 伝説…今日でサヨナラだな あはは!航は隣に並ぶ86を見ながら笑った ブォン!ブォン! ブォオオー!86とNSX-R二台の乾いたエキゾーストノートが静まり返った峠に響き渡った!… 再び新たな伝説が生まれようとしていた…
病院 いつもの夜の巡回…看護士が各病室をチェックしていたあれ…ドアが開いてるわ…急ぎ足早に病室に向かう看護士 あ…!! ハッハッ…息を切らしナースセンターへ飛び込む看護士婦長!大変です!愛ちゃんが…急にどうしたの?
キィキィー!スタートの合図と同時に二台が飛び出した!辺りに焼けたタイヤの臭いがたちこめた… やっぱ先にNSXか…上りは86にはキツいよな!NSXのぶっちぎりじゃね〜の!?バトルの噂を聞いて集まった一人が言った孝!あいつら適当な事言ってるし…最後まで分からないのに!(一平) 確かに一般的にそうだろ。でも純が言ってたぜ…あの86は完璧に仕上がってるって。あとは純次第だと思うな(孝) 数秒後闇夜の中に二台は消えて行った…
タクシーが止まった この先工事で通行止めですよ(運転手) ここでいいです…あとは歩いて行きますから(愛) 愛はタクシーを降りると峠道の入り口に立った まだリハビリ始めたばかり…遠くまで歩けないわ…早く探しましょ!(婦長) 当直全員で病院内を探し始めた純…どこ…。愛は峠道を上って行く…
ブォオー!NSXが先を行く!その後方50Mの86が後を追う 誉めてやるよ…ついて来れるだけ…だが俺の先を行くのは不可能だ(航)NSX-typeRは日本はもとより世界の名だたるサーキットを走り込みレーシングカー並みのセッティングがしてある。生まれながらのサラブレット…追い越す事など素人には所詮無理な話しである…
キィー!!連続する上りカーブ…激しい横Gに耐えきれずタイヤが悲鳴をあげる冷静沈着な航は顔色一つ変化しない…精密機械のような正確なハンドルさばき…一方純も無表情で的確なギヤチェンジと最大トルク域の回転数を維持し離れまいと食らいつく! 二人の高い運転技術と高性能マシーンの戦いが繰り広げられてる…まさにドッグファイト!
すでに戦いが始まって10分が過ぎた…依然順位は変わらず。峠の頂上が過ぎヘアピンとS字、最後に湾岸線入り口まで長い直線が続く下りへ二台は走りつづけるルームミラーを見る航。離れない…なぜだ…ポンコツ86… 何も焦る事はない、いまだこっちが有利には変わりない…
伊東警部!タクシー会社から運転手が20分前に峠入り口で若い女を下ろしたとの事です。こんな時間だし気になって連絡くれたみたいですそう…車用意して!念の為現場に行くわよ! 何もなければいいけど…香織はR34パトに乗り署を後にしたその頃 入り口から200M先の駐車場付近に愛がいた… ゴホッ…胸が苦しい…もう歩けないょ…
二台はキツいヘアピンを次々とクリアして行く!純は無駄なドリフトを避け次第に距離を詰める。航は感じていた…間違いなく自分より純は下りが速い… テクニック 車の性能…全てに俺は勝ってる。何故だ?…何故86ごときに詰められるんだ… あなた86に勝てる?航の脳裏に香織の言葉が浮かんだ… その言葉を振り切るように航はアクセルを踏み込む! ブォオー!加速するNSX!追い詰める86!
やっぱり思った通りだ。…純はNSXのコーナーをクリアする挙動をじっくり見ていた。チャンスはある…必ず…純は自分に言い聞かせた その頃孝達はゴール地点の工事標識のある場所にいた 風が吹いてきたな…台風の影響か(孝)雨降りそう(一平)勝って純…(幸子)
最後のヘアピンを通過する ググっ…一瞬フロントが外へ膨らむ…見えないプレッシャーから前半から飛ばしていた航。そのツケは後半に現れた ギィーン!!エンジンがうなる!純はセカンドにぶち込みアクセル全開!勢いよく回転計が上がる!針が11000rpmを越えた。86がNSXに牙をむいた!
し!しまった…横過重をかけすぎた!こんなに早くタイヤのグリップが落ちるとは…(航) NSXがヘアピン出口で外へ膨らんだのを純は見逃さなかった。すかさず強引にインに入る!86がついに前に出た。そのままの勢いでS字コーナーに入る バカか!ガードレールに突っ込むぞ!崖の下だ!(航) ブォオォーー!86はスピードを落とさない、ガードレールが迫る!…
キィー!86のブレーキランプが一瞬光った。過重をフロントタイヤへかけるとすぐに車体が横になりドリフトしながらコーナーを抜けて行く… 何だ!?あんなドリフト見たことない…本来ならガードレールに張り付いてるはず。瞬間的に過重移動している…俺はとんでもない車を相手したのか?…(航) S字を抜け二台は最後の直線に出た
愛は駐車場のベンチに仰向けになっていた。馬鹿だなあたし…歩くのやっとなのに。感情が優先してる…まだまだ子供… …雨ダワ…。台風の影響でパラパラと雨が降ってきた… あっ…聞こえる!排気音が近づいてる…純!あたしここよ!ゴホッ!ゴホッ… 苦しい… 純…助けて… 愛がいる駐車場まであとわずかな所まで純は来ていた…
駄目だ!抜けない!前半の直線で差をつけたのに最後の直線で抜けないとは…(航) 86はフルチューン…軽量ボディに推定270ps…さらに純は相手にプレッシャーを与える為と航の運転技術を見る事、後半の連続ヘアピンに対しタイヤを温存するのにあえて後ろについた…純の作戦勝ちである 航は冷静さを失っていた…負ける訳がない自信を崩すまいとさらにアクセルを踏み込んだ
ガガガッ!何だ?航が焦る…その時異変が起きた ギギギィー!コントロールを失うNSX! ブォオーン!86が突っ走る!雨が降り出し視界が悪くなった。後方の異変に純はまだ気づかない 純が来るワ…あたしはここよ…ゴホッ… 純…た・す・け・て… ブォン!無情にも純は通り過ぎて行った… …純…愛が小声で呼んだ。ザアー…愛の顔から涙と雨が一緒に地面に流れ落ちていった…
来た!どっちだ?おーっ!86だ!やったー!(孝) 86の周りにみんなが集まった やったね純!(一平)まぐれだよ 笑(純) 純は勝負が終わり伝説を守った事に内心安堵していた そこへ香織が乗るパトカーが着いた 車外に出てみんなの所へ歩く香織
純が勝ったの!?腕上げたわね!ところで結城は?(香織)負けて恥ずかしくて逆戻りしたかも 笑 (孝) あのねこの辺で女の子見なかった?夜中にこんな所に降りたからタクシー会社から連絡きて巡回に来たのよ(香織) 一同顔を横に振る そう…どこ行ったのかしら…(香織)
伊東警部!本部から連絡です!結城総合病院から患者が一人いなくなったみたいです。病院内はくまなく探したみたいですが…。それと術後で遠くまでは行けないはずとの事です!名前は?(香織) はい!え〜と… しらとり あいという名前です! えっ…愛ちゃん!?(香織)愛がなぜ…(純)他の全員が一瞬固まった
ご…ごめんなさい…あたし愛に今日バトルするって言ったから…しゃがみこみ泣く幸子 じゃあタクシー降りた女の子ってもしかして愛ちゃんの可能性が!?大変だわ!雨も段々強くなってきてる早く探さなきゃ!(香織) ブォン!ブォオオーー!!86が勢いよく飛び出した! あっ!純!(香織) バカヤロー!(純)
シュゥー…ラジエターから蒸気があがっている NSXはフロント左タイヤがバーストし道路側壁に衝突し大破していた うぅ…俺とした事が…。航は体にダメージを受け痛みで動けなかった… その時、運転席に横たわる航の顔に光が当たった車?誰でもいい…早くここから出してくれ…(航) 車から降りた男が声をかけた おい!大丈夫か?しっかりしろ!今助けてやる
純は今来た道を戻って行った あいつ何やってんだよこんな雨ん中… みんなに心配かけやがって! ギィーン!86が坂道を駆け上がる! 愛はベンチに横たわっていた… …眠いょ…雨にうたれ次第に意識が遠のいて行く… ブォーン!86が愛のいる駐車場へと向かって来る…
航は男の車に乗せられた すまない…痛ッ(航) 後ろから見てたよ。台風で崖の上から落ちた小石でも踏んでバーストしたのかもよ…運が悪かったな…男が言った …後ろから見てた?高速バトルを…この男、俺達の後をついて来ていた?バカな…航は信じられなかった うッ…あばら骨が折れてるかヒビが入ってるな…痛みが酷い。悪い結城病院へ頼むよ…俺はそこの医者だよ(航)
近道するわ…下の駐車場手前から細い道に入るから(男) あぁ。…なんだこの車も86か…助けて貰って文句も言えないか…(航)キィーン!男はアクセルを踏み込んだ。背中にGがかかる嘘だろ…このままカーブで横Gかけられたらあばらが…(航)黒の86がドリフトしてコーナーを抜ける!あ…この金属音はターボ…86にか!それにコーナーで横Gがかからない?車の前後だけ左右に振るだけ…なんて技術だ…誰なんだこの人?
湘南ナンバーの黒い86…どっかで… 航は昔の記憶を思いだそうとした …あ!三年前まだ医学生だった頃の噂…。数ヶ月で関東一円の対立する族を一つにまとめあげ、更に龍神会に一人で殴り込みに行き解散に追い込んだ男の話だ。その男は滅茶苦茶速く黒い86乗りとか…でもまさかこんな所にいないよな…名前教えてくれないか?(航) あぁいいよ(男)
ぁ…光… 愛は閉じたまぶたが明るくなるのを感じた 光が強くなり全身を照らし出す ヤッパリ!ここか!純は車を降りベンチで横たわっている愛を抱き上げた 愛!しっかりしろ!その声に愛はゆっくり目を開けた…目に雨が入り純の顔がぼやけて見えた 純…振り絞ってやっと声を出した愛
…ヤット逢えたネ… ゴメンナサイ…アタシ… いいよ…しゃべらなくても…分かってるから ウン… ガクッ 愛の顔が横を向いた 愛!いま病院へ連れて行ってやるから!頑張れ!純は助手席に座らせると急ぎ発進した ヴォオオオー!峠に響き渡るこの夜の86の排気音は悲しい叫びに聞こえた…
あたしパパもママも知らない…いつも1人ぼっちだった… でも今は純がいる!こうやって手をつないでいられる人が今はいる!フフ あたし1人じゃないの!笑 フッ… ぁ…なぜ?…なぜ消えるの純…またあたしを1人にしないで…イヤヨ…アタシ… イヤッー! イヤッイヤッイヤッイヤッー!!あたしを1人にしないでー!!
そうなんだ…俺は結城って名前だよ… 航は思った…上には上がいる…認めたくないがさっきの純もこの男も俺より速い。二人に同じ感性を感じるのは何故だ?…負け…事実を受け入れるしかない…俺もそろそろ潮時だな… 航を乗せた黒い86はもう少しで病院へ着く…航は何も言わず目を閉じていた
なぜ消えるの!あたしを嫌いなの?! …もうイヤッ!… みんな嫌い!もうどうなってもいい… ア…あたしの足が…消えてく… 手も…体も… コワイヨ…… アタシガ…キエテイク……
急いで!(婦長) 航は手術室に運ばれた まったくお前ってやつは!(院長) 悪いなオヤジ…内蔵もやられてるかもしれない…痛みが酷くなった…(航) 黙ってろ!麻酔かけるぞ(院長) そして麻酔が効き始めた 院長!愛ちゃんが見つかりました!意識不明です!(看護士)何?愛ちゃん?どうした?うっ麻酔が…
俺がいない間に何があった?…航は麻酔で意識が遠のく 院長は当直のスタッフともに手術を進める 問題は愛ちゃんだ…かなり心臓に負担がかかった…寄りによって主治医の航がこの有り様じゃ…(院長) その時… ピッピッピッピッ 院長!愛ちゃんの心拍数と血圧が下がってます!
どうなの!?香織が手術室の前に居る純に問いかけた …手術が始まって一時間たつけどまだ何とも…(純) そう…大丈夫だよきっとまた元気になるよ…あの子は強い子だから(香織) …(純) よっ… あら来てたの?あなたはいつも突然現れる人ね…香織が微笑む
三時間後手術中の赤いランプが消えた。院長が手術室から出てきた先生しばらくです…その節はお世話になりました おぉ涼君!不思議な巡り合わせだ…息子を助けてくれたそうで…礼を言うよ(院長) 先生!愛は?愛は大丈夫ですか!?…純と仲間達が院長に近づいた 一呼吸おいて院長が口を開いた…精一杯手は尽くしました…
数日後 航の病室 そんなワケで命を助けてもらった…(涼) 総理から直々のオペの依頼で当時オヤジが東大病院にいた時に救ったのが涼さんか…噂には聞いてたけどまさかその本人に助けられるとはね。不思議な巡り合わせだなぁ(航) 俺もそう思うよ。すべてはこの土地…みんなここが好きなんだよ…峠、海岸線、蒼い海…言葉じゃ言えないけど心の故郷だよ(涼) …オヤジがここを選んだワケがなんとなく分かったよ(航)
そこへ香織が入って来て航に声をかけた どうよ具合?1ヶ月で退院だって…ざまぁないよなぁ 笑(航) 良かったね!そろそろ走り屋卒業して仕事専念したら〜?笑(香織) だね…笑(航) ところで涼はいつまでいるの?(香織) 8月一杯かな…遅い夏休みだよ。別件でやることあるけど…あ、それ秘密だった…はは(涼) 何よ!教えなさいよ!奥さんに言うわよ!笑(香織)
ザァ〜…夏も終わり…夕日が海を橙色にキラキラ輝かせていた…湾岸線沿いにある小さな喫茶店の駐車場に86が停まっている。純は86に寄りかかり煙草を胸ポケットから取り出した カチッ…いつものジッポに火がつく… フゥ〜…その目は遠く水平線を見つめていた…
航の病室 ところで愛ちゃんの意識はいつ戻るのかしら?(香織) オヤジの話しだと何とも言えないとか…2分間心臓停止…脳に行く酸素も停止…意識が戻るかはギリギリの時間だし最悪…植…いけね!主治医の俺が言う言葉じゃないな…(航) そっか…可哀想に…純もいつもと変わらずの態度だし…カラ元気出してるのが見え見え…あたし純を見ると悲しくなるわ…はぁ…(香織) あとは神様に祈るしかないか…(涼)
3日後 愛の病室 灯台の灯りが海を照らしている。純は窓際に立ちその光をジッと見ていた… しばらくして純が愛のベッドのわきにある椅子に座った なんでいつもこうなんだ…絵里の時もそうだ…俺ってやつは!俺って人を不幸にしてばかり!… チクショー!… 純は愛の手を両手で強く握り締めた うぅ…うつむいた純の目に涙が…
愛…ごめんよ… 俺… 何もできない… 何も… 握り締めた愛の手に純の涙がこぼれ落ちた… その時…微妙に愛のまぶたが動いた 純は気づくはずもない…帰る為に純が立ち上がる…
…ココドコ?暗くて分かんない…何も聞こえない… アタシ…どうしたの? アタシガ見えない… アレ…上からヒカリ…マブシイヨ…でもキラキラして気持ちいい! ア!脚…手が見えてきたぁ! 神々しい光は愛の全身包んだ アタシこんな感覚初めて…心が癒される純は眠り続ける愛を見ると病室を出て行く…
愛のまぶたが少しずつ開く… ぼやけて良く見えない… …ここはどこ?アタシ…なんで… 純の後ろ姿が二重に見える…純なの!?愛は心の中で叫んだ愛は一生懸命に声を出そうとしたが口が動かない 神様…声を…声を出させて…お願い… …ジュン…愛の口からやっとの思いで出た声はか細く…そして優しさに満ちていた
ドアを閉めようとした純が立ち止まった…聞き違い?誰か呼んだ気が… 純の後ろ姿を愛はジッと見つめていた…愛の目は涙であふれていた 純…早くアタシを見て!こっちを向いて顔を…顔を見せて!心が踊る愛 ま、まさか?…純は愛の方へゆっくり振り向いた…
それから何日か過ぎた。涼が純の整備工場へ積載車から一台の車を降ろした… カーカバーの下からアルミホイールが見える 何?涼さんの用事って…(純) メーカーの知り合いのお偉方から試乗の感想聞きたいからって言われて持ってきてあったんだ(涼) 何よこの前の話?がっかり〜(香織) 10月の幕張モーターショーに出展する車だよ まぁ見てのお楽しみ…笑(涼)
涼が全体を覆ってるカバーを外すとメタリックシルバーの車が姿を現した 何!これ!(香織) あ!(純) 最高出力480ps…最大トルク60kg… こいつとハチロクを戦わせる…(涼) えー!(香織 純) その車は数年の眠りから覚め日本最高峰のスポーツカーのエンブレムを輝かせていた その名は… スカイラインGTR…R35! …………完…………
続篇はないの?
どっちのハチロクだろ?トレノ?それともレビン?しかし よくできているな〜 続編作って〜